独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「わあ、可愛い!」

 敷物の上に、ずらりと並べられた木製の腕輪を見て、フィリーネは歓声をあげた。

 艶々と磨き抜かれた木製の輪に、花やつる草、ブドウにサクランボといった植物、犬や猫と言った動物等が彫られている。綺麗な石がはめ込まれているわけでもなく、本当に彫り込まれた模様だけのシンプルなものだ。

 磨き抜かれた木に丁寧な彫刻が施されている腕輪は、フィリーネの手首にぴったりだった。これなら、冬の間に城で作れるな……と、ちらりと頭の隅をかすめたのはアーベルには内緒だ。

「そんなに気に入ったなら、一つ買ってやろうか」
「いいんですか? でも……」

 食べ物はご馳走してもらっていたけれど、それは食べてしまえばなくなるから。これは高価な品ではないけれど、形としていつまでも残る。思い出を形として残してしまってもいいのかと迷いが生じた。

 アーベルにとっては、高い買い物ではないのだろう。フィリーネからしてもさほど痛い出費というわけでもない。

 けれど。好意を寄せている相手から身を飾る品を贈られてしまって、本当にいいのかとためらう。彼の方は単なる気まぐれ。契約期間が終われば、終わってしまう関係なのに。
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