独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 こういうことはさっさと進めた方がいいが、慎重にもならなければ。
 パウルスと額を突き合わせて考え込んでいたら、アーベルが部屋にやってきた。

「フィリーネ、今、いいか?」
「今、ちょっと無理です——パウルスと、話しているところだから」

「いいから、ちょっと来い」
「あ、僕が席を外すので、アーベル殿下は、ごゆっくりどうぞ。フィリーネ、話が終わったら呼んで」

 パウルスが慌てた様子で立ち上がり、そのまま控室の方へと消えてしまう。妙に心細い気分になって、フィリーネは彼の後姿を目で追った。

「フィリーネ、こっちを向くんだ」

 強い口調で言われ、しぶしぶアーベルの方へと顔を向ける。彼は、今まで見たことないようなものすごい不機嫌な顔をしていた。

「お前、パウルスとばかりいるじゃないか。俺の『お気に入り』ってこと忘れたのか?」
「パウルスと一緒にいるのは、この部屋の中だけだから妙な噂にはならないと思いますけど」

 最近では、アーベルのお気に入りという噂を壊してしまわないようフィリーネは、パウルスと庭でお茶を飲むのもやめていた。
 たとえ、ヘンリッカが一緒にいたとしても、だ。
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