独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 ぐっと肩を掴んで、壁に押し付けられる。あまりにも力がこもっていたので、思わず悲鳴を上げそうになった。

「パウルス、パウルスって……お前は、いつもそうだな。自分の役目を忘れたのか?」

 言われて、フィリーネは目を瞬かせる。繰り返し問われたのは、アーベルの『お気に入り』を演じるのを忘れてはいないかということだった。

「……だって、今動かないと……」

 唇が震えた。類似品が大量に出回っている今、早めに動かなければクラインに迷惑をかけることになってしまう。
 彼の店にだけ商品をおさめると決めたのに、その約束を破るも同然の事態になるのには気が引けた。

「だから、俺が言いたいのは!」

 不意にアーベルが大声を出して、フィリーネは首をすくめた。わかっている。
 フィリーネの役目は、アーベルの『お気に入り』を務めること。
 だけど——。

(私の方は、『お気に入り』なんて言葉じゃ我慢できなくなってる)

 最初から手が届かないとわかっていたし、手を伸ばすつもりもなかったし、それでいいと思っていた。
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