独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
(……私にだって、私のやらないといけないことがあるんだから)

 右手で左手首にはめた腕輪に触れた。指先に伝わってくる優しい木の感触。
 アーベルに自分の気持ちは告げずに帰ると決めた。この腕輪は、思い出の形見。

(……すべて忘れられるのかは、わからない……けれど。)

 アーベルに寄せてしまった気持ちは、もうどうしようもないのだ。

 役目を終えたら、ちゃんと忘れると決めていた。本当に忘れることができるのかどうか怪しいと思い始めているのは否定できないけれど、この気持ちは忘れるしかないのだ。

 自分でもいやになってしまうことに、その反面、まだ迷っている。焦ってこの気持ちを捨てる必要はないのではないか、とも思う。

(もう少しだけ、この気持ちを……抱えていてもいいんじゃないかしら)

 黙り込んで前を見つめたら、パウルスが小さく息をついた。

「……君も、意地っ張りだよね」
「何の話?」
「いや、別にいいんだけど。素直になればいいと思って。僕とヘンリッカみたいに」
「あなた達は、素直っていうよりだだ漏れてって言うのよ」
< 233 / 267 >

この作品をシェア

pagetop