独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「それは心配だねぇ……王様に警戒するよう言った?」
「話はしたけどさ、ほら、あの人ものんきだから」

 たしかにフィリーネの父はのんきなのではあるが、国民にまで知れ渡っているのは、やはり小さな国だからだろう。今、荷馬車を御してきてくれたおじさんと父は仲良しだ。一緒にカブの世話をしているくらいなのだ。友人といってもいい仲だ。

「パウルス——ちょっといい?」

 馬車の外に声をかけるのとちょうどタイミングを同じくして、がたんと大きく馬車が揺れた。

「な、何よっ! 気を付けてよね。大事な商品積んで——」
「だめだ、この馬車は渡さない!」

 不意に馬車の外から争うような声が聞こえてきて、フィリーネは身体を固くした。パウルスの声が緊迫している。

(な、何かしら……)

 懸命に耳をすませて外の様子をうかがうも、何が起こっているのかさっぱりわからない。

「フィリーネ、逃げ——うあああっ!」

 剣を打ち合わせる音が響いてきたかと思ったら、パウルスの叫ぶ声が聞こえてくる。

(ど、どうしよう……どうしよう。逃げるって……どこへ?)

 とにかく、馬車から降りようとしたその瞬間。フィリーネは激しく馬車の壁に叩きつけられた。馬車が勢いよく走り始めたのだ。
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