独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「嘘っ! ちょっと、パウルス、ねえ!」
「フィリーネ、逃げろって言ったのに……!」

 荷台から後方を確認してみれば、パウルスとおじさんが倒れていた。パウルスの方はようやく起き上がったところで、こちらに向かって、緊迫した表情を向けている。

(……盗賊だわ。貴重品を積んでいるように見えたのかしら)

 この馬車は、そんなに高そうな品を積んでいるようには見えないはずなのに。
 そろそろと荷台の前の方に移動して、そこから外の様子を伺う。御者台にいるのは見たこともない男だった。

(どうしよう……逃げろってパウルスが言った時、迷うんじゃなかったわ……!)

 うろたえ、慌てて周囲を見回すけれど、ものすごい速度で走っている馬車から飛び降りるなんて無謀な真似はできるはずもない。

 せめて、積み荷が無事であるようにと、懸命に箱を押さえつける。このまま、馬車がどこまで走っていくのかなんてフィリーネにわかるはずもなかった。

 箱を懸命に押さえつけながらも、身体が震えるのは止められない。

(助けて——助けて、アーベル様!)

 箱にしがみついたまま、心の中でアーベルの名前を呼ぶ。
< 238 / 267 >

この作品をシェア

pagetop