独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「悪いな。俺達の一存では決められないんだよ」

 ばたばた暴れるも無駄な抵抗で、後ろに回した手をぎゅっと縛られてしまった。それから足も縛り上げられる。

 レースの箱と一緒に、馬車の荷台に放り込まれてフィリーネは絶望した。アーベルがこの事態を予想していたわけではないだろうけれど、パウルスと一緒に行くなという彼の言葉をおとなしく聞いておくのだった。

 フィリーネ一人消えたところで、きっとアーベルは気にしない。彼は、フィリーネの存在なんてすぐに忘れてしまって、国のために一番いい相手と結婚するのだろう。

 パウルスとヘンリッカの結婚祝いのため、作ったおそろいの寝室用スリッパはフィリーネの部屋に置かれていて、もっと早く渡せばよかったとまた後悔が押し寄せてくる。

「——うっ……」

 ぽろりと涙が零れ落ちた。馬車の周囲が静まり返っているということは、男達はどこかに行ってしまったのだろう。

 手を縛られているから、あふれる涙をぬぐうこともできない。ぽたぽたと流れ落ちた涙が、馬車の床に広がる。
 だが、フィリーネは不意に気を取り直した。こんなところで泣いている場合ではない。
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