独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 アーベルに気持ちを伝えるのも、パウルスとヘンリッカにお祝いを渡すのも。フィリーネがここから無事に生きて戻れば、どうにだってできるではないか。
 そうとなったら、まずは周囲を確認せねば。この手をどうにかして解放したら、足を結んでいる縄だってほどくことができる。

「……痛いっ」

 外の様子をうかがいながら、レースの箱に縛られた手首をこすりつける。縛られた状態では、手をうまく動かすことができなくて、戒めている縄ではなくて、手首を過度に擦りつけてしまった。

 今のはかなり痛かったので、たぶん、擦り傷になってしまっただろうと思いながら、なおも手を動かし続ける。

(……早く、どうにかしないと。あいつらが戻ってくる前に……)

 手さえ自由になったら、ここから逃げ出せる。ここがどこか知らないけれど、街道からそう離れていないはずだ。街道に出たら、どこかに隠れて——そして、都まで馬車に乗せてくれる人を探そう。そうでなければ、自分の足で歩いたって二日もあればつくはずだ。

(そうよ、負けない。負けないんだから……!)

 まだ、三乙女のレースがどんな結果を生むのかそれも確認していない。そんな状況で、泣いているだけでは何も始まらないではないか。
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