独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 縄ではなく、手首を何度もこすりながらも、しばらくしたら、縄が緩んできた。最後は、痛みをこらえながら、力任せに引きちぎる。それから、足首を縛っている縄をほどき、フィリーネは自由となった。

 馬車の背後にある乗り降り口から、そっと外の様子をうかがう。どうやら、ここは街道から森の中にちょっと入った場所という感じのようだ。

 馬はすぐ側の木に繋がれていて、男達の姿は見えない。

(……ナイフとかあればよかったのに)

 馬を逃がしてしまえば、男達を慌てさせることもできたはずだ。だが、商品の引き取りに来ただけなのに、ナイフなんて持ってるはずがない。

 そのまま、木々の間に逃げ込む——だが、枯れ枝を踏み、ポキリという音が、想定以上に大きく響いた。

「——逃げたぞ!」
「いったい、どうやって——追いかけろ!」

 嘘でしょう、と心の中で悲鳴を上げるが、もう全力で逃げるしかない。森の中をジグザグに走り、少しでも男達から遠ざかろうとする。
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