独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「——積み荷を奪うことを指示したのは、そちらのライラ姫だ」

 は? と奇妙な声を上げそうになったのを懸命にのみ込む。だって、ライラが積み荷を奪う指示をするなんて——なんで、そんなことをする必要があるのだろう。

「——本当に、申し訳ありませんでした」

 デルガド王国の高官が、フィリーネに向かって頭を下げる。フィリーネは慌ててばたばたと手を振った。

「いえ、だって、そんな」

 こういう場合、どう振る舞うのが正解なのだろう。助けを求めて視線を巡らせるけれど、助けになってくれる人はいなそうだった。

「ユリスタロ王国のレースが人気を得ているということで——ライラ様は他に思うところがあったようです。それで、あんな愚行を」
「なんでそんなことしたのかしら。だって、昨年、我が国が売り込みに行った時には、目もくれなかったのに」

 誰に聞かせるともなく、思わずフィリーネはつぶやいた。そう、昨年、デルガド王国に売り込みに行った時、まるっきり相手にされず、だから今回、フィリーネがアルドノア王国に来なければならなくなったのだ。

 だが、フィリーネのそのつぶやきは、ライラの耳に届いていたらしい。
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