独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 けれど、三種類のレースのつなぎ目は丁寧にかがられていて、普段使いにするにはまったく問題のないところまで修理されていた。

「ありがとう、ヘンリッカ! すごく——すごく、嬉しい!」

 フィリーネは、ヘンリッカから受け取ったショールを抱きしめた。このショールには、皆の想いがこめられている。あの日、踏みにじられてしまった皆の想いも、その中には含まれていた。

「お礼なら、アーベル殿下に言ってくださいね。殿下が修理するようにって持ってきてくださったんですから」
「……アーベル様が?」

 まったく思ってもいなかった展開に、ショールを抱きしめたままきょとんとしてしまう。気まずそうにアーベルは視線をそらした。
 ここで始めて気づく。たしかにあの時、ショールを持って行くことができたのはアーベルだけだ。

「それは、だな。ほら——フィリーネが泣いていたから、だ」

 にやにやするパウルスとヘンリッカのせいで、馬車の中は妙な空気に包まれた。

「ほらほら、今のなし! 今のなし——! ヘンリッカ! お前、なんでこのタイミングで出してくるんだ!」

 アーベルが、焦ったような声を上げる。
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