独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
こんなに長く両親と顔を合わせないなんてことがなかったから、また涙腺が緩みそうになる。だが、今はそれどころではないということも思い出した。
「さっそくで悪いのだけれど、工房を見せてもらってもいい? アーベル様が、レースに興味があるって」
「かまわないが、参考になるのかな」
父が許可を出してくれて、工房へとアーベルを案内する。
工房として使われているのは、昔は、たくさんの人を集めていた広間で、ずらりと並んだ机はクラインへの札を作ってくれた家具職人の手になるものだった。
台の上にいくつもボビンを並べて、レースを織っている者。真面目な顔をして、紙に下絵を描いている者。出来上がったレースにアイロンをかけている者。
それぞれの工程で、皆作業していたけれど——そこにいわゆる「乙女」は存在しなかった。
森の乙女ドリーのレースを織る作業にいそしんでいるのは、二十年前からレースづくりに携わってきた漁師のおかみさんだ。
雪の乙女シエルのレースを織っているのは、背中に子供を背負ったお母さん。農家に一昨年嫁いだ女性で、お腹にはもう一人いるそうだ。生まれる前に仕上げてしまいたいと無理をしない程度に頑張ってくれている。
「さっそくで悪いのだけれど、工房を見せてもらってもいい? アーベル様が、レースに興味があるって」
「かまわないが、参考になるのかな」
父が許可を出してくれて、工房へとアーベルを案内する。
工房として使われているのは、昔は、たくさんの人を集めていた広間で、ずらりと並んだ机はクラインへの札を作ってくれた家具職人の手になるものだった。
台の上にいくつもボビンを並べて、レースを織っている者。真面目な顔をして、紙に下絵を描いている者。出来上がったレースにアイロンをかけている者。
それぞれの工程で、皆作業していたけれど——そこにいわゆる「乙女」は存在しなかった。
森の乙女ドリーのレースを織る作業にいそしんでいるのは、二十年前からレースづくりに携わってきた漁師のおかみさんだ。
雪の乙女シエルのレースを織っているのは、背中に子供を背負ったお母さん。農家に一昨年嫁いだ女性で、お腹にはもう一人いるそうだ。生まれる前に仕上げてしまいたいと無理をしない程度に頑張ってくれている。