独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!

「——笑った! フィリーネ様、あの人、私達のこと鼻で笑った!」

 ヘンリッカが、フィリーネの袖を引っ張った。どうやら、笑われたのがよほどこたえたようだ。

「いいから、気にしないの……さあ、行きましょう」

 気にしたって始まらない。ヘンリッカの背中をとんとんとたたいてなだめてやる。
 それから、フィリーネはパウルスの方を振り返って素早くささやいた。

「荷物、任せちゃってごめんなさい」
「大丈夫、わかってる。今の僕は従僕だからね」

 いつもなら、トランクの一つや二つ自分で運ぶが、ここに来たらそんなわけにもいかない。申し訳ないなと思いながら、ヘンリッカとパウルスに任せて、フィリーネは長い廊下を歩き始めた。
 廊下の天井は高く、そこには精緻な絵が描かれている。床には、全面赤い絨毯が敷き詰められていた。アルドノア王国は平地にある分、ユリスタロ王国より早く春が来たようだ。日当たりのいい廊下はぽかぽかとしていた。幅の広い廊下の窓はところどころステンドグラスになっていて、そこから赤い絨毯の上に柔らかな光が注いでいる。
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