独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 直射日光の差し込まない位置にかけられている絵は、代々の国王一家の肖像画だと思われる。
 若かったり、年をとっていたり威厳のある立派な衣服に身を包んでいたり、華やかなドレスをまとっていたり。きらびやかな鎧をつけ、こちらをにらみつけている若き王子の絵もある。

「すごいですねぇ……」

 感心したように絵を見つめてヘンリッカがつぶやいた。それから、彼女は一枚の絵をしめす。

「ほら、あれがアーベル王太子殿下ですよ」
「……顔は知っているわ。肖像画をいただいたもの」

 アルドノア王国に来るにあたり、フィリーネにはアーベルの肖像画が渡された。一応ちらっと見るだけは見たが、あまり興味はないので、見たのはその時一度だけ。
 今、改めてよく見てみると、肖像画が必要以上に美化しているのでなければという前提条件付きで、顔立ちは整っていると思う。黒い髪も、怜悧そうな黒い瞳も魅力的だ。通った鼻筋もすっきりとしているし、少々薄めの唇も形はいい。
 黒い髪は無造作に額に落ちかかっていて、整った容姿に野性味を加えていた。
 ——が、そんなものフィリーネにとっては何の役にも立たない。
 王太子妃の位を取りにきたわけではなく、レースの販路を見つけるのが目的なので、あまり不必要なところには首を突っ込まない方がいいのではないかという気もする。
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