独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!

「では、父上、そういうことで」
「こら、人の話は最後まで聞け——おいっ!」

 父の言葉は最後まで聞かず、その場からさっさと退散する。
 いずれ、結婚しなければならないだろうことは理解していた。だが、それが『今』だとは思ってもいなかったのだ。

「あと数年は、かわせると思っていたんだがなあ——」

 先ほどの父と同じように額に手をあて、ため息をつく。
 せめて二十五歳までは、なんとか引き延ばせると思っていた。まさか、周辺諸国の令嬢を集めて、花嫁選びをするなんて強硬手段に出るとは思ってもいなかったのだ。

(父上と母上は相思相愛だからな。俺に同じことを望まれても困るんだが)

 アーベルの両親は、政略結婚ながらも仲睦まじい。息子の目の前でいちゃいちゃするのもはばからないほどに。
 それはそれでどうかと思うこともあるのだが、二人が幸せならばアーベルとしてはあまりうるさいことも言えない。
 だが、三か月もの間若い女性に囲まれるとなると正直なところぞっとする。
 できればそっとしておいてほしい。だが、どうしても逃げられないというのであれば、三か月後に——一番都合のいいというと相手に失礼だろうが——政略上メリットのある相手を選ぶしかないのだろう。
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