独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「というわけで、お前、俺の『お気に入り』になれ。三か月でいい」

 ようやくアーベルは本題にたどり着いたみたいだった。フィリーネは目を瞬かせた。

「……それって、私に何かいいことあるんでしょうか? 一方的に利用されるのは、ちょっと困るというか」

 その言葉に、アーベルはもう一度にやりとする。

「当然だ。俺が気に入ったという理由があれば、お前に周囲の目が行くぞ。そこで、そのレースとやらを思う存分宣伝すればいい。ついでに、それを買い取ってくれそうな仕立屋も紹介してやる。どうだ?」
「……そうですねぇ」

 悪くはない話のような気がする。別にアーベルに興味があるというわけではないが、レースの販路を見つけるのに協力してくれるというのなら彼と手を組んでもいい。何をするかにもよるけれど。

「それなら、私は何をしたらいいんですか?」
「俺と出歩け」
「それだけ?」

 じぃっとアーベルを見上げると、どぎまぎしたように目をそらす。それから彼は一つ、咳ばらいをした。

「まあ、俺が『王太子妃にしようと思っている相手』に見えるように振る舞ってくれればそれでいい」

 話がうますぎる。まだ、他に裏事情がありそうだ。警戒しながら、アーベルを見つめる。
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