独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「本当に?」
「そうだ」
「本当に本当に本当にそれだけですか?」

 しつこく繰り返したら、アーベルは大きな声を上げた。

「くどい! お前、いくらなんでもしつこいぞ」

 アーベルと一緒にいれば、他の女性達がどんなドレスを着ているのか間近で見る機会も増えるだろう。悪くはない話ではある。
 ちらりとアーベルの顔を見上げたら、表情を不機嫌なものへと変化させていた。たぶん、この交渉はここまでが限界だ。

「わかりました」

 なんだかいろいろ怪しそうだが、これ以上彼の機嫌をそこねるのはきっとよくないだろう。フィリーネは彼の提案を受け入れることにした。
 お互いにとって利益のある話になりそうだ。ならば、断る理由もない。フィリーネからしたらむしろ思いがけない幸運だ。

「とりあえず、三か月、でいいんですよね?」
「ああ。それと——俺に余計な期待はするなよ。三か月後には、国にとって最適な相手を選ぶ」
「それは当然でしょう? だって、私を王太子妃にしても、アーベル様にはいいことないですよね」

 フィリーネがそう言うと、アーベルは驚いたような顔になる。その表情が意味するところは理解できなかったけれど、こうしてアーベルとフィリーネの契約、つまり密約は無事に成立した。
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