独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
ドレスの仕立て直しも無事に終わり、フィリーネは部屋に戻ってお茶とクッキーを楽しみながら、帰ってきたヘンリッカ相手のおしゃべりを始める。
ヘンリッカは、目を丸く見開いてフィリーネの方へ身を乗り出した。
「嘘でしょ? どうやって、アーベル殿下を陥落させたのよ」
あまりにも驚いたらしく、ヘンリッカはさっそく侍女としての言葉遣いを忘れてしまっている。
「別に陥落させたわけじゃ……あ、このクッキーおいしい」
パウルスが城下町で買ってきてくれたクッキーをつまみながらおしゃべりをしているのだが、今のフィリーネはソファにだらんと転がっている。とてもだらしない姿勢なのだが、この国に来てからずっと気を張っているのだからしかたない。
「このクッキーおいしい、じゃなくて! なんで、そんなことになったのかって聞いてるのよっ!」
ソファに寄りかかりながら、フィリーネはアーベルとの出会いについて説明した。裁縫室でドレスを仕立て直していたら、他の令嬢達から逃げ出してきたアーベルが転がり込んできたこと。
令嬢達の相手はごめんこうむりたいアーベルと、レースの販路を確保したいフィリーネの思惑が一致したということ。
そして、彼と行動を共にするという契約を結んだことを。