独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「いいこと? アーベル様に気に入られてる『ふり』なんですからね。そこに何か愉快な感情があるとか、そういうこと全然ないから」
「愉快な感情って、それ普通アーベル様相手に出てこない言葉よ、フィリーネ様」

 ヘンリッカがちょっとしたみたいに目を見開いた。

「悪くはないと僕は思うけどね。だって、アーベル殿下の側にいれば、いろいろと見えてくることもあるでしょ」

 使用人としてはありえないレベルでだらだらとしているパウルスはのんきなものだ。休むことなくクッキーをぱくぱく食べているものだからどんどん減っていく。

「パウルス、あなたのんきねえ……アーベル殿下とお近づきになりたい女性は山のようにいるのよ? フィリーネ様が彼女達に意地悪されたらどうするのよ」

 のんきなパウルスにヘンリッカはあきれているようだ。けれど、フィリーネ本人もあまりその点については気にしてなかった。

「三か月の辛抱だもの。そのあたりは我慢するしかないんじゃない? 本当にお付き合いしてるんだったら一生続くのかもしれないけど、今回はそういうわけじゃないんだから」
「フィリーネ様ものんきすぎるわ……!」

 ヘンリッカは頭を抱え込んでしまった。
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