独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
(だって、しょうがないじゃないの)

 レースの販路を確保するためだ。多少の害は我慢しないといけない。
 アーベルの目に少しでも留まりやすい位置に行くために、歓迎の園遊会では集合時間の一時間も前から集まっていた令嬢達。彼女達にとって、フィリーネは敵にしかならないだろう。
 そんなことよりも、明日の舞踏会はアーベルにエスコートされるわけで。

「さっきまで仕立て直していたドレスで明日はいいわよね?」
「ええ、いいと思うわ」

 仕立て直したドレスは、襟元と袖口に雪の乙女シエルのレースをあしらってある。最近の流行に合わせて、スカートをふわっとさせたので問題はないはずだ。
 まさか、アーベルという相棒ができるとは思っていなかった。彼の手を借りれば、たしかに女性達の目をフィリーネに向けることは可能だ。
 フィリーネは歩く宣材となるわけで、販路を拡大するのにもこれ以上の相手はいないと思う。

「ねえ、フィリーネ様」

 不意にヘンリッカが、真剣な顔になる。

「明日は、うんとおしゃれしましょう。フィリーネ様の存在を思う存分他の令嬢達に見せつけないと!」
「え、ええ……」

 ヘンリッカの気合はフィリーネ以上だ。フィリーネは、完全に彼女の気迫に押されてしまっていた。
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