独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
 その翌日。フィリーネは舞踏会に出かける支度にいそしみながら、頭の中でスケジュールを確認していた。

(アーベル様は、最初のダンスは私と踊るでしょ。それから、五曲、違う女性と踊って——そのあと、連続で私と三曲、だったかな)

 フィリーネは、ヘンリッカが髪を結ってくれるのを鏡に映して見ていた。ヘンリッカの器用な手が、フィリーネの髪を複雑な形に結い上げていく。
 横の髪は、いくつも編み込みを作りながら、上半分を頭頂部に向けて編み上げていく。髪の下半分は、コテで波打たせて肩から背中にかけて流してあった。

「髪飾りがないのが残念ですねぇ。このリボンで飾りをつけますね」
「ありがとう。まあ、私が着るならこんなものよね」

 フィリーネが仕立て直したドレスは身体にぴったりだった。これなら、どこに出てもそんなに恥ずかしくない——と思うけれど、どうだろうか。

「——ふーん、あのドレスがこうなったわけか」
「ひゃああっ!」

 不意にアーベルの声がして、鏡の中のヘンリッカが飛び上がった。

「わあ、わあ……こ、こんなところにまで——! やだ、フィリーネ様、どうしましょう!」

 突然のアーベルの登場に、ヘンリッカは慌てふためいている。彼女の手から髪を調えるのに使っていたブラシが飛んだ。
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