独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「こんなところにって、フィリーネを迎えに来ただけだ。ええと、そこにいる男は誰だ」
「従僕の——ってことになってるけど、いとこのパウルスです。あと、こちらのヘンリッカは私の親友で、今回は侍女ってことでついてきました」
「フィリーネから話は聞いてます。どうぞよろしく」

 床に落ちたブラシを拾い上げ、アーベルの方に手を差し出したパウルスに向かって、アーベルはしかめっ面になったけれど、おとなしく手を差し出してくれた。二人は固い握手を交わす。

「なるほど。いとこと親友か」
「ええ。私専属の侍女とか従僕とかいないので二人にお願いしたんです。初めて国外に出るのにその方が心強いし」

 フィリーネは肩をすくめたけれど、アーベルは気にした様子もなかった。

「よし、それじゃ行くぞ」

 アーベルはフィリーネの手を取った。

(……あ、意外と手が大きい……)

 もちろん、フィリーネの周囲にだって同じ年頃の男性がいなかったわけではないけれど。
 生まれてからずっと一緒だったパウルスを筆頭に、幼い頃から気心の知れている相手だけ。そして、こんな風によく知らない男性に手を取られるのは初めてだった。

 不意に、アーベルが異性であることを突き付けられたみたいだ。彼のことなんてなんとも思っていないのに、急に胸がどきどきとし始める。
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