独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「どうした? なんだか変な顔をしてるぞ」
「べ、別に……」

 彼がこちらを見てくるから、フィリーネは慌てて視線をそらした。
 こんな風に心臓が跳ねるようなことも、今までの人生で経験したことなかった。

(……初めて、国外の舞踏会に出るから緊張しているのよ)

 自分で自分にそう言い聞かせる。ユリスタロ王国でも舞踏会は開かれるけれど、こんな大掛かりなものに出席するのは初めてだ。それに、本国で舞踏会に出る時には、外国の賓客はともかくとして、国内の招待客の顔は全員知っているのでここまで緊張しない。

「——アーベル王太子殿下、ご入場でございます」

 城の侍従が、アーベルの訪れを告げる。フィリーネの名は、ここでは出されなかった。

(ど、どうしよう……本当に、このまま人の前に出るなんて)

 アーベルの隣にいることで、フィリーネのレースに令嬢達の視線が集中するって本当だろうか。集中してもらわなければ困る。けれど、多数の人の前に出るのは慣れていないので、押し寄せてくる緊張をどうしたらいいのかわからなくなる。
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