独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「——あ、だめかも」
扉が開かれたその時、緊張のあまり、心臓が口から飛び出すかと思った。
「まったく、お前、どうしようもないやつだな」
笑ったアーベルは、フィリーネの腕を掴み、ぽんと背中を叩いた。
「しかたないじゃ、ないですか」
フィリーネはふくれっ面になる。アーベルがふんと鼻で笑うのが憎らしい。
——だけど。
アーベルに背中を叩かれたことで、ずいぶん気楽になった。一つ、大きく深呼吸したことで、落ち着きを取り戻したようだ。口から飛び出そうになっていた心臓も、無事に元の位置に落ち着いて、今はいつもと同じリズムを刻んでいる。
(……思っていたより、アーベル様って優しい人かも)
フィリーネだってわかっている。彼のために集まった令嬢達の相手をしたくないという理由でフィリーネを側に置く彼のもくろみが、誉められたことではないくらい。
けれど、フィリーネが不安を覚えているのにすぐに気づき、なだめてくれるという気遣いは、彼の美点。そこは素直に認めたい。
平常心を取り戻したフィリーネは、アーベルに連れられて広間に足を踏み入れた時には、口元に微笑みさえ浮かべていた。
扉が開かれたその時、緊張のあまり、心臓が口から飛び出すかと思った。
「まったく、お前、どうしようもないやつだな」
笑ったアーベルは、フィリーネの腕を掴み、ぽんと背中を叩いた。
「しかたないじゃ、ないですか」
フィリーネはふくれっ面になる。アーベルがふんと鼻で笑うのが憎らしい。
——だけど。
アーベルに背中を叩かれたことで、ずいぶん気楽になった。一つ、大きく深呼吸したことで、落ち着きを取り戻したようだ。口から飛び出そうになっていた心臓も、無事に元の位置に落ち着いて、今はいつもと同じリズムを刻んでいる。
(……思っていたより、アーベル様って優しい人かも)
フィリーネだってわかっている。彼のために集まった令嬢達の相手をしたくないという理由でフィリーネを側に置く彼のもくろみが、誉められたことではないくらい。
けれど、フィリーネが不安を覚えているのにすぐに気づき、なだめてくれるという気遣いは、彼の美点。そこは素直に認めたい。
平常心を取り戻したフィリーネは、アーベルに連れられて広間に足を踏み入れた時には、口元に微笑みさえ浮かべていた。