独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「あの娘、誰かしら」
「今まで、見たことないわよね?」

 最初の歓迎会以降、ずっと引きこもっていたから、誰もフィリーネがどこの誰なのか気づいていないみたいだった。

「あら、でも……あのレースは素敵」
「ドレスも悪くないわね」

 ひそひそとささやいているつもりで、ささやいていない声がフィリーネの耳にも届く。
 フィリーネは、アーベルの顔を見上げた。彼は、少しも動揺した様子など見せず、フィリーネの手を引いてくれる。

(わ、わぁ、反則——!)

 不覚にもときめいた。こんな風に、異性に免疫のないフィリーネが悪い。落ち着きを取り戻したと思ったばかりの心臓が、再び暴走し始めた。一気に頭に血が上ってくらくらとしてくる。

(……だめよ、こんなんじゃ。落ち着かないと……アーベル様に笑われちゃう)

 フィリーネの動揺に気づいているのかいないのか、アーベルは今までフィリーネに向けてきたのとはまるで違う蕩けそうな笑みでこちらを見つめてくる。
 まるで、本物の王子様——、いや、実際彼は王子様なのだけれど。

 集まった令嬢達は皆綺麗に着飾っている。昼間のドレス以上に華やかだった。レース、フリル、リボンに鮮やかな色。
 この国の男性貴族も多数招待されているけれど、令嬢達の視線は、今フィリーネを導いてくれているアーベル一人に集まっている。
< 62 / 267 >

この作品をシェア

pagetop