独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「よし、踊るか」

 ダンスの時間が始まり、アーベルがフィリーネに手を差し出したので、会場に集まっている令嬢達から悲鳴が上がった。
 だが、その悲鳴もアーベルの耳には届いていないみたいだ。彼はフィリーネの手を取ったまま、ダンスフロアの中央に進み出る。

「——ほら」
「わ、わわっ……大丈夫、かしら、私」

 出発前にパウルスを相手に特訓してきたはずなのに、手も足もぎくしゃくしてしまってうまく動かない。
 アーベルの足を踏んでしまわないかと不安になって、フィリーネは視線を落とした。

「ダンスは苦手か」
「なんとか踊れる程度のものです。あまり期待はしないでください」

 こういう光景を夢に見たことがあったけれど、まさか自分がこんな体験をすることになるなんて想像したこともなかった。

(……パウルスに練習付き合ってもらって正解だったわ……!)

 パウルスに練習を付き合ってもらっていなかったら、今、この場で転んでしまったかもしれない。
 手を取られ、くっと引き寄せられる。ある程度密着していないと上手に踊ることはできないからそうするのは当然とわかっていても、顔に血が上るのが自分でもわかる。
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