独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
(だって、しかたないじゃない。こんな状況、初めてなんだもの!)

 周囲の視線が突き刺さっているのを自覚すれば、楽師達が奏でる音楽も耳を素通りしてしまう。

(少しくらい、誉めてくれてもいいと思うのよ!)

 くるりとまた回された時、視界の隅をライラの姿がかすめた。こちらを睨みつけているのがわかるから、フィリーネは首を縮めた。

「……あっ」

 油断していたから、あやうくアーベルの足を踏みつけるところだった。ぎりぎりのところでうまくかわせたと思う。
 一曲なんとか踊りきったところで、フィリーネは完全に疲れ果てていた。もともと体力には自信がある方なのに、今消耗したのは体力じゃなくて精神力。

(これも全部アーベル様のせいよ……!。)

 心の中で八つ当たりしていたら、アーベルはフィリーネを半分引きずるようにして、会場の隅に用意されている休憩場所へと連れて行ってくれた。柔らかなソファに腰を下ろしたら、急にどっと疲れが押し寄せてきたみたいに思えてくる。

「——上出来だ」

 今のって、誉めてくれたんだろうか。アーベルの表情からではそれはわからない。彼の表情からすると誉めているというよりは、面白がっているという様子が強いようにも思える。
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