独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「そうですね……ええと、ありがとうございます」

 でも、たぶん誉めてくれたのだろうと解釈して、お礼はきちんと口にした。何しろアーベルとは、仲良くしなければならないのだ。フィリーネの目的を果たすためにも。
 それに彼に助けられたのも本当のこと。彼のリードでなければあんなに上手に踊ることはできなかった。

「このあとアーベル様は他の人と五曲踊って、私はその後で三曲踊ればいいんですよね?」
「頼むぞ。義理を果たした後はずっとお前と一緒だ。なにしろ、お前は俺の『お気に入り』だからな」
「……はいはい——って痛い!」

 気のない返事をしたら、人差し指の爪でぴんっと額を弾かれた。

「生意気な返事をするからだ」

(たしかに、目上の人に対する返事じゃなかったかもしれないけど!)

 フィリーネの態度が悪かったのはともかくとして、額を弾かなくてもいいんじゃないかと思う。

 フィリーネを残してアーベルが戻っていくと、すぐに他の令嬢達が彼を囲み始める。まったく、彼の人気はたいしたものだ。
 ソファに完全に体重を預けて、通りがかった給仕に飲み物を頼む。レモン果汁をたらした冷たい水を飲むと、他の令嬢達を観察する余裕も生まれてくる。
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