独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
(——王族らしく、か)

 フィリーネの王族らしさとアーベルの王族らしさの間には少し違いがあるかもしれなかった。国の規模からして違うのだから当然のことだ。
 彼に協力してくれるならばという前提条件付きではあったけれど、自国の産業を売り込もうとしている姿には共感するものがあったから、手を貸してやってもいいかと思えてきた。

 フィリーネの部屋で出会ったいとこのパウルス、友人のヘンリッカ。三人の結束は、どうやら固いらしい。

(機会を見て……クラインの店でも連れて行ってやるか。たしか、母上が重宝している店だったし)

 目下、都のルディンで人気上昇中なのは、クラインという男が経営している仕立屋だ。まだ売り出し中ということで特に高級店というわけでもないのだが、その分価格は抑えめだ。フィリーネに与えるのならば、クラインの店あたりでちょうどいいだろう。

 だが、今すぐというわけではない。ドレスを仕立ててやるのは、アーベルの目論見通り、フィリーネがアーベルの『お気に入り』という評判が立ってからだ。

 もう少し時間をおいて、アーベルの目論見が成功してからでないと、ドレスを買ってやる理由はできない。その程度の計算はできる。
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