独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
◇ ◇ ◇
アーベルがフィリーネを舞踏会で独占したという噂は一気に広まった。それに、その後も『お気に入り』として連れて歩いていることも。
どこに行っても、令嬢達の視線が突き刺さる気がする。
それは、庭園に座ってアーベルと待ち合わせをしている今もそうだった。
今日のフィリーネは、胸元に森の乙女ドリーのレースをあしらった若草色のドレスを着ている。ドレスと同じ布で作った帽子の前面に同じレースをつけたので、フィリーネの顔は半分レースに隠れていた。
(……噂って、どこまで広まってるのかしら……!)
正直なところ、こんなににらまれるのには慣れていない。
「ほら、あの子よ」
「ユリスタロ王国の王女でしょ?」
「なんで、あんな子がアーベル様のお気に入りなのかしら」
フィリーネがアーベルの『お気に入り』だと、すでに皆に認識されているようだ。
(……皆、それだけ暇ってわけじゃないわよね……)
率直に言ってしまえば、こうやって集まっている令嬢達ときちんと向き合わないアーベルのやり方も、やはりあまりよくないのではないかと思う。
皆、国や家族の期待を背負ってここに来ているのだから。最初からアーベルのことは眼中になかったフィリーネはともかく、集まっている女性達には失礼だ。
(それを言ったら、私も失礼かもしれないけれど)