記憶のかけら
野望と希望
この屋敷に来て3日。

少しづつわかってきたことがある。



櫻正宗の家が治める兵庫は古くから栄えた良港で、

瀬戸内海を通って船が行きかい、

各地の島々を経由していろんなものが集まってくる。

集まった物資は京都、大阪、奈良の近畿各地へ、

九州や琉球、遠くは明国まで、

陸路を使えば、北陸や上越、東海まで運んでいる。



物資の移動に伴い、

人も情報も富も自然と集まってくる。

そのため、この良港を手中に収めようとする周辺豪族との、

小競り合いが絶えないらしい。



いつ襲われるかわからないため、

すぐ応戦できるよう準備に抜かりはないと、

見張りの者が胸を張る。

普通に見える街並も、

要塞のように、仕掛けが随所にみられる。



実際、

道路は馬が入りにくいよう直線ではなく、

ところどころ不自然に曲がっていたり、

行き止まりが作られている。



街中の大通りは隊列が組めないよう途中で幅を変え、

いざとなれば橋を落として分断できるようにしてある。



民家はそれぞれ、見えにくいところに小窓がつけられ、

内部から簡単に脱出できるよう細工されている。



川の水を屋内に引き込み、

通常は炊事洗濯に利用し、屋外では運搬に使い、

いざ戦となれば水は敵の侵入を防ぎ、

火災が起きれば初期消火できるように、

よそ者にはわからないように、区割りされている。

外部からの侵入はむずかしい。



この街は手ごわそうだ。



戦のたびに街が焼かれ死者がでて、

再興して再生してを繰り返す。



松姫様の話し相手となって、

より詳しく状況を知ることができた。



お舘さまは、

両親を戦で亡くして、

自身も人質となり辛い過去を持つ。

それらの体験が揺るぎない信念となって、

戦のない世の中を実現しようとしていた。



この時代に不可能かもしれない。

一瞬かもしれないし、

時間がかかるかもしれない。

港湾整備で富を蓄え、

情報を集め戦略を練り、

周辺の豪族に決して攻められることのない、

女・子どもが泣くことのない平和な国を作るため、

この地域の覇権を手に入れたいと、

切望しているという。



お舘さまの存在そのものが、

不可能を可能にするかもしれないと、

領民に希望を与えているのだと、

松姫が教えてくれた。

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