記憶のかけら
天女の衣
港街に来て4日目の朝。



風待ちをしていた船が、次々と出港準備をしている。

明国使節団も、いよいよ今夜出発するらしい。

大広間では、出立前の挨拶をしている。

裏方のみんなも、あちらに気を取られている。



お天気が良いから、洗濯物はすぐ乾くだろう。

この時代に着て来た服を洗っちゃおうかな。

なかなか洗うタイミングがなかったし。

今なら誰もいない。

タライを見つけて、手で洗う。

洗濯機も乾燥機もないけど、

洗剤も柔軟剤もないけど、気分いい。



わずかな洗濯物はすぐに洗い終わり、

干そうとしてハンガーがないことに、気が付いた。

仕方なく、人目につかない建物横の、木の下枝に干す。

手拭いでブラジャーとパンティを隠しながら。



トップスとスカートはどうしよう。

レース生地とレーヨンのドレープ生地は

とてもデリケート仕様。

生地が薄いし、すぐ乾くよね。



木の枝ではちょっと心配。

引っかかりそう。

プチプライスとはいえ、結構気に入ってるしなあ。



周りを見渡し、ちょうど良さげな物干しを発見!

着物を洗い張りするのに使うのか、

何枚も板戸が立てかけられていた。



庭の隅っこに適当な大きさの板戸を運ぶ。

横に倒して庭石と庭石の間に渡し、

その上にトップスとスカートを、

商品のように広げて干した。



ターコイズブルー色のトップスとネイビー色のスカートが、

純和風庭園で現代アートのように、存在感を示していた。



その様子を見ている人がいるとも知らず、

真由美は小さな達成感に満足していた。



遠くから「真由美殿~」松姫の声がする。

なんだろう?

慌てて、声のする方へ向かう。



誰もいなくなった庭で、

「!!!!!!!」

「なんだ、これは!?」

木の陰から周囲を見渡しながら、

板戸に近づき、

恐る恐る手を伸ばす男がいた。



「まるで天女の衣のように薄くて軽い、

それになんと、色鮮やかなのだ!?」

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