記憶のかけら
名前
広間には20人程の男たちがいた。

両脇にずらりと並んで、

大河ドラマのワンシーンみたい。

板張りに胡坐を組んで座るスタイルだ。



一段高いところに先ほどの男性、

「お舘さま」が座っている。

今まで見かけた人達の顔も見えた。



困ったことに、

身分の高い人に対するお作法が全く分からない。



大河ドラマでは入口に座って、

三つ指を揃えてついて、

目線は指より少し先を見て、お辞儀だっけ?

思い出しながらやってみる。

後ろに控えるよし乃さんも、

同じようにしているのを見てほっとする。



上座より一段低いところにいる男性に、

近くまで来るよう指示されるけど、

内心、どうすりゃいいのよ。と焦る。



覚悟を決めて、前に進む。

上座から2メートルほど離れて座り、

また指をそろえて頭を床につける。



どうしていいかわからない時は、

相手の出方を見ることにする。



「面を上げられよ」向かって左の男性が言う。

ゆっくり顔を上げ、

まっすぐ正面のお舘さまを見つめる。



お舘さまは目元を細め、聞いてきた。

「名はなんと申す」と。



名乗ったところでと思ったけど、

名乗らないのも失礼だ。

「上杉真由美です」

フルネームで普通に答えた。



男たちがどよめいた。



「上杉だと?」

「何故この地に?」

「供の者はいずこに?」

「何を企んで居る?」などなど。



平凡な名前だけど、そんなに驚かなくても…

供なんていないし、

何も企んでないし。

聞こえてくる言葉に違和感を覚えながらも、

次の言葉を待った。



お舘さまの表情はさっきより険しくなり、

「お主、

上杉の館を出て何をしたかったのだ」と聞いてくる。



やかた?

館?

いえ?

家?

いちいち脳内でワード変換、

面倒くさい…



素直に「買物です」と答える。

嘘じゃない。



「買物とな…」

予想外の答えだったのか、

次の言葉はなく、

誰一人、音を立てなかった。



しばらく無音。



再度、

「どこから来たのじゃ」と問う。



私は、自宅の場所をありのまま答える。

「京都です」



さっきよりも大きなどよめきが起きる。



「京の都だと?」

「上杉め、すでに上洛しておるのか?」

「今度は都で戦を仕掛けるのか?」



さすがに、

何か大きな勘違いで話が進んでる気がして、

どうにも落ち着かない。



わからなくても、話さなきゃ何も伝わらない。



立ち上がって、

昨日から今までのことをまくし立てた。



広間は静まり返った。

< 7 / 53 >

この作品をシェア

pagetop