艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
間近に見て指で撫で、そこが葛城さんに強く口付けられた場所だと気付いたとき、また身体が熱く火照った。


「もー……やだ」


手で押さえながらよろよろとベッドに戻り、コロンと横になる。
こんなキスマークひとつが嬉しいなんて、どうかしている。


ころころ変わる感情に振り回されて、どっと疲れを感じた。


「……ああ、それに結局、何にも聞けてない」


そう気がつくと、ただはぐらかされただけのような気がしてまた落ち込んでくる。


ころん、とあの日てのひらで転がった琥珀糖にでもなった気分だ。


ほう、とため息をひとつ溢す。


好きです、って言っていいのかな。
言ったらきっと、『俺も好きだよ』と返ってくるだろう。


筒がなく、夫婦となるために。
だけどそんな気持ちのない言葉が欲しいわけではないのだ。


「……もっと、普通の出会い方ができれば良かった」


そうしたら、こんな悩みはなかっただろう。


考えながらいつのまにか眠ってしまい、その翌朝だった。


父から、『今すぐ帰れ』と連絡があったのは。

< 208 / 417 >

この作品をシェア

pagetop