艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
彼は座卓に向かい正座をして、父に言われた何かを書いているところだった。


何も言えず、黙ったままで部屋に入り葛城さんの斜め横に座る。
もう一度彼を見ると、今度は彼の方が私から目を逸らし、正面にいる父を軽く睨む。


「人が悪いですよ、望月さん」


その横顔が珍しく赤く色づいて、私も恥ずかしくなって俯いた。


父もまた、珍しく楽しげな声を上げる。


「いつも澄ました顔しやがって。たまには違う顔見せろ」

「あの……ごめんなさい」


気まずさと申し訳なさで、小さな声で謝罪をした。
が、彼は憮然とした表情でこちらを見ず、再び手元の書類に視線を戻す。


「葛城さん、それ……」


彼が書いているのは、婚姻届だった。
すらすらと、躊躇うことなくペンを滑らせるその手を、息を詰めて見つめてしまう。


「藍が持ってろ。お前がいいと思ったら、書いて出せ。嫌なら破け」


葛城さんの書くべきところが埋まったそれを、父は私に持たせた。
初めて気付く。


この一連の流れは、私に決定権を持たせるための父の親心だったのじゃないだろうか。
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