艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
彼のそんな声が聞こえて、ほっとする。
だけど、なんとなく会話の流れから、私以外にだれか候補がいたのかと、邪推してしまった。


「良い子ねえ。でも、てっきり、絵里ちゃんとかと思ってたからちょっとびっくりしちゃったわ」


絵里。って、誰だろう。
どくん、どくんと心臓が騒ぐ。


こんなとこで聞き耳を立ててしまっていることに、ひどい罪悪感があった。だけど、足が動いてくれない。


「なんでだよ」

「だって、あの子あんた追いかけてそっちに行っちゃったでしょ。てっきり」

「就職先が見つからないっていうからこっちで世話しただけだよ。絵里とは何もない」


『絵里』


彼が、私の知らない女の人の名前を呼び捨てにした。
そのことが、ひどく衝撃だった。



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