艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「君が秘書をしてくれたら、毎日楽しいだろうね」
見ると、彼がうっすら目を開けてこっちを見上げていた。
「おっ……起きてっ……」
「眠る前に聞こえた。ごめん、そんなに気にしてるとは思わなかった」
「ひゃっ」
掴んだ手を引かれて、ベッドの中まで連れ込まれる。いつもより高い体温で、炬燵みたいに温かかった。
「……気になります。お母さんも葛城さんも、自然に下の名前で呼んでたし」
恥ずかしい。赤くなった顔は、葛城さんの体温のせいにしてしまおう。
抱きすくめられたのをいいことに、彼の胸に縋り付く。こうしていれば、粉砂糖みたいに簡単に不安は解けていった。
「彼女、自分の名字が嫌いなんだよ。だから学生の時はクラス中みんなに下の名前で呼ばせてたから、その名残がね」
「え……」
「お手洗いとかなんとか、子供の頃からかわれたんだろうね。想像つくよ。でも再会してからは仕事絡みってこともあって、名字で呼んでる」
確かに、電話の時は『御手洗』と呼んでた。
それに、子供の頃とはいえそんなからかわれ方をしたなら、名字が嫌いになっても仕方ないかもしれない。
「本当にそれだけだよ」
「うん」
素直に頷いたけれど、半分は納得できていない。彼はそうでも、彼女の方は、絶対『それだけ』ではない。