艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
声にできないほどの痛みを感じてぎゅっと目を瞑り、それでも階段にすがり付きそれ以上落ちないように蹲った。
「いっ……っ」
その間、あまり周囲の音が聞こえていなかった。
痛みを堪えているうち、少しずつ耳が音を拾い始め、誰かの悲鳴や怒号に気付く。
「奥様! 大丈夫ですか!」
知らない男の人の声でゆっくりと目を開けて顔を上げた。
顔を見てもやっぱり知らない人だ。
「だ、大丈夫です……」
あちこち痛いけれど、多分打撲程度だろう。
階段の上で、柳川さんが数人の警備員に拘束されているのが見えた。
私が逃げ出さなくても、既に囲み初めていたのかもしれない。
「社長!」
声をかけてくれた男の人が、そう叫びながら私をその場に残し階段を降りていく。
社長って。
葛城さんのことだよね?
見渡しても葛城さんの姿が見えなくて、嫌な予感にぞくっと寒気を感じた。