艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~

声にできないほどの痛みを感じてぎゅっと目を瞑り、それでも階段にすがり付きそれ以上落ちないように蹲った。


「いっ……っ」


その間、あまり周囲の音が聞こえていなかった。


痛みを堪えているうち、少しずつ耳が音を拾い始め、誰かの悲鳴や怒号に気付く。


「奥様! 大丈夫ですか!」


知らない男の人の声でゆっくりと目を開けて顔を上げた。
顔を見てもやっぱり知らない人だ。


「だ、大丈夫です……」


あちこち痛いけれど、多分打撲程度だろう。
階段の上で、柳川さんが数人の警備員に拘束されているのが見えた。


私が逃げ出さなくても、既に囲み初めていたのかもしれない。


「社長!」


声をかけてくれた男の人が、そう叫びながら私をその場に残し階段を降りていく。


社長って。
葛城さんのことだよね?


見渡しても葛城さんの姿が見えなくて、嫌な予感にぞくっと寒気を感じた。
< 343 / 417 >

この作品をシェア

pagetop