艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
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大学在学中、就職活動をしていた頃、私は遅まきながらちょっとした反抗期だった。
花月庵の経営にちょっとでも関われたらと、簿記や秘書士の資格を取った。少しは父に認めてもらえるだろうかと思ったのだが、父は私を他の企業に就職させると言って、私の希望など聞かなかった。


恐らくそれなりの企業の秘書にでもなれば安泰だろう、くらいに思っていたのだろうが。
父が私の希望を聞かないのなら、私だって父の意向を無視したっていいはずだ。
そんなわけで、私が選んだ職種が販売員だった。


「いらっしゃいませ。いかがでございますか」


しかもデパ地下。和菓子売場が正面に見えるお茶屋さんで、通路を横切るお客様に主張し過ぎないよう控えめに声をかける。
本当は、父への当てつけに他の菓子メーカーに勤めてやろうかと思ったが、それはそれで花月庵から遠ざかりそうな気がして出来なかった。


こんな感じで意地を張る私は、父に似ていると兄や母によく言われるので、老後は気を付けようと思う。

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