艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「藍?」
困った顔で私に額を合わせる。
涙の理由を問いかけられても、きちんと説明しようとすればするほどどこに問題があるのかわからなくなる。
「……圭さんが、避けるから」
そう言うとぽろっと一粒涙が転げ落ちた。
「避けてないだろう?」
「……うん」
「それに」
ちゅ、と再び唇を啄んで、彼の手が優しく私の下腹部に触れる。
温めるように、慈しむように優しく撫でた。
「あんまりくっつくと、自制が効かなくなる。大切なんだよ、俺にひどくさせさせないで」
彼の言いたいことはわかる。
私だって大事にしてもらっていることは、ちゃんと理解している。それでも寂しいのは、やっぱり。
「……でも、お医者さんはもう大丈夫って言った」
触れて欲しい。
お腹の子も大事。
自分に自覚が足りないのだろうか。
求めるのは、悪いことなのだろうかとか。
子供が生まれたら、母親としてしか見てもらえなくなるのだろうかとか。
大事にしてくれているのはわかっているのに、こんなことを言うのは自分勝手なのだろうかとか。
私は母と女の境目にいるような、ゆらゆらと揺れる不安定な場所に立っているような感覚で。
それもこれも全てが初めてのことだから、だから不安なのかもしれない。