艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
勇気を出して言ったのだ。恥ずかしいのを我慢したのだ。
それなのに、圭さんはとても困ったような顔をした。それだけで、ずきりと胸の奥が痛くなる。
そんな私を知ってか知らずか、彼はもう一度唇は啄んだけれど、浅く乾いたキスだった。


「藍は可愛い」


じわっ、と涙が滲んできた。
そんな、当たり障りない言葉と軽いキスで誤魔化さないで。

わけのわからない不安や寂しさに襲われているのに、わかってくれない圭さんに腹も立ってきた。これは若干、八つ当たりだがそうと気づく余裕もない。


「あ、藍?」
「私、もうちょっと起きてますからどうぞ寝てください」
「藍、なんで泣いて」
「おやすみなさい」

涙目を見られたくなくて、ぷいっとそっぽを向いた。
圭さんの膝から下りようとして、しかしその直前でがっしりと腰をホールドされる。


「藍っ、なんで泣いてるんだ」

おろおろと狼狽える圭さんが、別に自分を避けてるとか疎ましく思っているとかそこまで思っているわけじゃないけれど。

どうにも、足りない。もっとくっついていたいのに、どうして距離を取ろうとするのか。

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