艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~

たまりたまった鬱憤が、彼の言葉で揺さぶられる。泣き出す寸前みたいな気持ちで唇を噛み締めていると、少しの間を置いて彼が言った。


『……俺と君は政略結婚になるけれど。だからといって、関係をおざなりにするつもりはない、ってことだよ』

「え?」

『花月庵のことは、君にも協力して欲しいことがあるし、ちゃんと話すよ。だけどまずは俺を知ってもらいたい』

「……葛城さんのことを?」

『そう。俺も君のことが知りたい』


傷んでいた胸の中心が、ぽっと小さな熱を持つ。騙されてはいけない、一筋縄で行きそうな相手ではない、そうは思っていても、固く閉ざしているつもりだった心の扉が、ほんの少し緩む。


だって、初めてだった。男の人に、私のことを知りたいなんて言われたのは。


「……釣書でも送りましょうか」


照れ隠しにそんなことを言ってみる。すると電話口でくすりと笑った声がする。


『それもいいけど、やっぱり直に会いたいね』

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