艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
就職したお茶のメーカーは、もう結婚して大きな息子さんのいるおじさんとあとは女性社員ばかりだ。合コンなどでも行けばまた違ったのかもしれないが、そういうことにも縁がなかった私は社会人になってからの方がますます出会いもなくなった。


職場の先輩が幼馴染の恋人と結婚退職された時、ふと、この先自分にもこういう日が本当に来てくれるのかと不安になった。
良い人に出会えなかったらそれこそお見合いか婚活アプリなんかに先々頼るのかもしれない、と漠然と思っていたが。


「……来てしまった」


まさか、自分から政略結婚に足を踏み入れることになろうとは。
かつん、とヒールの音を鳴らす。


平日昼間の駅のコンコースは、それほど混雑していない。目の前には、先日祖母の誕生日を祝ったあのホテルの出入り口がある。


結局、両親にも兄にも話さず、私は祖母にだけ今日葛城さんに会うことを相談した。祖母だけが、ビジネス関係なく葛城さんのことを見ているからだ。この縁組に花月庵とカツラギの利益が絡むらしいこともちゃんと言った上で、葛城さんのことをどう思うのか聞いてみたかった。


『年寄りに親切な人は、根っこはちゃんと優しい人よ』


そうとも限らないと思うのだが。特に葛城さんの場合、下心ありきで祖母に親切にした可能性があるわけで。
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