Jewels
第2章
琥珀が紅玉の前で戸惑っていたその時、宮殿の外には金剛と翠玉の姿があった。

金剛は作業着のままだったのでもともと土埃だらけだが、翠玉はせっかくのドレスを台無しにしていた。
金剛の真似をして、窓から壁を伝い降りるなどという行動をとったためだ。

金剛は翠玉の様子を見て呆れている。


「王家の姫君とは思えない格好だな。」

「兄様こそ、人のことは言えないのではなくて?」


翠玉は全く気にした風でない。
地面に下りると、ふわりとしたスカートの裾をぽんぽんとはたいた。


「あとで怒られるぞ。」

「兄様もよ。白銀(シロガネ)は、私が兄様の真似をしただけだって、すぐ解るでしょうから。」


翠玉はいたずらっぽく微笑んで金剛を見上げる。


黄金と同様に、翠玉の邸宅には白銀という従者がいた。
金剛に振り回される黄金も哀れではあったが、翠玉というおてんばな姫の面倒を看なければならない白銀も相当哀れである。

黄金と白銀は、両家のパイプ役として、よく情報交換をしていた。
翠玉のおてんばが金剛のせいであるとわかれば、白銀はすぐさま黄金に報告をし、黄金が金剛を嗜めるという展開になるのだ。

金剛がいくら怒られようとそれはいつものことであるし、翠玉が怒られるにしても、それと引き換えに金剛との時間を手に入れられるのなら、それは願っても無いことだった。

だから翠玉は平気なのだ。


「なるほど、俺もか。まったく、黄金も白銀も、厄介な跡取りを抱えて哀れだな。」


金剛は笑う。
翠玉は、自分だけに向けられたその笑顔を、ずっと眺めていたいと思った。

翠玉はふと、自分が出てきた窓を見上げる。


「兄様、本当に、姉様を置いていらしてよかったの?」

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