Jewels
翠玉のストレートな質問に、金剛は思わず眼を逸らした


「ああ。琥珀がいるから大丈夫だろう。」

「姉様と琥珀は面識が無いわ。知らない人と置き去りにされて、姉様、すごくショックだと思う…。」


翠玉は姉の心中を察し、心苦しい表情を見せる。

だが、自分もまた金剛との時間を欲し、紅玉を裏切ったことは事実なのだ。
偽善者。
翠玉はやりきれない感傷に浸っていた。


「逃げるつもりなんぞさらさら無かったんだ。今日は紅玉姫のご機嫌も随分と良い様子だったしな。しかし、琥珀が来ていたのを見て、つい出来心が働いてしまった。」

「兄様、わざと琥珀を?」

「あいつは紅玉姫に憧れているからなぁ。」

「やっぱり…。」


琥珀と話しているときに翠玉が感じた印象は間違いではなかったのだ。
琥珀は、庶民でありながら、紅玉の幸せを願っている。

『欲しいものは手に入るとは限らない』

琥珀があの時語った言葉の真意が、琥珀自身の想いであったと知って、翠玉は切なくなった。


「あいつには世話になっている、時には夢を見せてやるのも悪くないと思ってな。」


金剛は悪びれずに言う。


「兄様って、変なところに勘が働くのね。」

「まぁな。」


金剛はいいことをしてやったつもりなのだろう。

しかし紅玉の気持ちも、琥珀の気持ちも解っていない。

ふたりの心情を思うと翠玉は胸が痛んだが、自分も結局金剛の企みに加担し、ふたりを裏切ったのは事実だ。
金剛を責める権利は無い。
今は、金剛に皮肉を言う程度にとどめておいた。


「人の気持ちを思いやることに関しては、疎いようですけどね。」


金剛は、言葉の意味をどう受け取ったのか、苦笑いをした。

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