Jewels
その日の夕方、紅玉は琥珀を伴い、ドレスを埃で汚して帰って来た。


「紅玉様!?そ、そのお姿は!?」


埃まみれの翠玉を叱るのはいつものことだが、紅玉のこととなると別である。
白銀は卒倒しそうになっていた。

紅玉は平然と答える。


「ごめんなさいね、白銀。金剛様の工房にお邪魔していたの。婚約者の趣味を理解することも必要でしょう?」

「は、はぁ…。」


白銀は琥珀に訝しげな視線を向ける。
琥珀も無理矢理ここまで連れてこられたのか、所在無さげに白銀と紅玉の様子を交互に窺う。

紅玉はそんな琥珀の視線に気付いたのか、くすりと笑う。
埃で汚れていることなど、微塵も感じさせない鮮やかな笑みだった。


「堂々としていらっしゃいな、琥珀?貴方はただ、わたくしをここまでエスコートして下さっただけなのだから。」


琥珀は慌てて背筋を正す。


「白銀、こちらは金剛様と面識のある、採掘工の琥珀よ。採掘場からここまで危ないから、無理を言って送って頂いたの。」


紅玉は隠す様子も無く琥珀を紹介する。
琥珀は慌てて白銀に頭を下げた。


「ご無礼大変申し訳ありません!夕暮れ時でしたし、紅玉様おひとりで町を歩くのは危険だと思いまして!分不相応ながら、お伴させて頂きました!」

「あぁ…それは、ご苦労様でした…。そうとは知らず失礼を…。」


白銀もつられたように頭を下げる。
まだよく状況が飲み込めていないようだ。


「琥珀、ご苦労でした。ありがとう。」


紅玉は、白銀に事態を把握させないうちに琥珀を外へ送り出す。
琥珀の心配そうな視線に、ただ微笑んで返す。

扉を閉めてしまうと、すぐに階段へ足を向けた。


「白銀、疲れたのでもう休むわ。小言なら明日聞きます。」


事態を飲み込めぬまま戸惑っている白銀をホールに残したまま、紅玉はあっさりとその場を去り、部屋に閉じこもってしまった。

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