借金取りに捕らわれて 2
秋庭さんは「分かった。」とだけ言って、今は引き下がってくれた。


一瞬、いっそ時間の経過と共にこの事は忘れてくれないかな、と往生際の悪い考えが過ったが、秋庭さんに限ってそれはないだろう。


諦めよう、私。


調理場に戻ろうとベンチのトレイを膝の上に移すと、秋庭さんが片手でそれを奪い去る。


「挨拶行くついで。」


「あっ、りがとうございます…」


ベンチから急いで立ち上がりながら言えば、微笑みだけ返ってくる。


秋庭さんはたまにこういう然り気無い気遣いをしてくれる。

始めは遠慮してこういう時は断っていたのだが、結局私が何を言っても無駄なことなんだと察し、今では大抵の場合はその気遣いを有り難く受け取ることにしている。


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