王子様と野獣
深々と頭を下げると、あさぎくんは次にひとりひとりを私に説明してくれた。
まずはウェーブヘアの優し気な女性だ。
「こちらが遠山千春(とうやま ちはる)さん。今月で結婚退職することになってて、君には彼女の仕事を引き継いでもらいたいんだ」
なんだ。優しそうに見えたから仲良くなりたかったのに、すぐ辞めちゃう人なんだなぁ。
「こっちの眼鏡の彼が瀬川次昭(せがわ つぎあき)くん。頭がキレるから、困ったときに相談すると頼りになるよ」
「どうも」
瀬川さんは眼鏡を直しながら、面倒くさそうに返事をする。私もぺこりと頭を下げると、「なんだ、かたぐるしいなぁ」といいながら、茶髪の彼が近づいてきて、正面から私の両肩をポンポンと叩く。
「俺、阿賀野翼(あがの つばさ)、二十七歳、彼女無し。困ったならなんでも俺に聞くといいよ」
「阿賀野、いきなり馴れ馴れしくするのはやめろ。仲道さんが固まってる。……仲道さん、こいつは人懐っこいところが取り柄なんだけど、ときどき度が過ぎるから。いやな時ははっきり言っていいよ。ただ、行動力で右に出るものはいないから、頼りにはなるよ」
「そういうこと! よろしくねー、百花ちゃん」
「は。はあ」
それはわかったけど、放してほしい。
「阿賀野、手」
あさぎくんが、指摘するとようやく放してくれた。
ああビックリした。飲み会でもないのにフランクすぎないかこの人。