王子様と野獣
「そして、さっき君を案内してくれたのが、田中美麗(みれい)さん。僕の補佐をしてもらっています」
わあ、田中さんは顔だけじゃなくて名前も美しいんだなぁ、なんて見ていたら、すっと手を差し出された。
「よろしくね、困ったら何でも私に聞いてください」
「あ。ありがとうございます」
なんだ、さっき敵意を感じたのは気のせいか。と笑って手を伸ばして握手をすると、ほんの少しだけど、痛いと感じるくらいの握力で握られた。口調と口もとの笑みとは裏腹に、目が威圧している。
いや、やっぱり敵認定されているわ。
ってことはこの人、あさぎくんが好きなんだ?
こんな短期間で嫌われる要因なんて、それくらいしか思いつかないもん。
きっと下の名前で呼ばれたのが羨ましかったんだろう。
ようやく手を離してもらって、ホッとしていると、最後にあさぎくんがまとめた。
「そして僕が主任の馬場です。この部署はみんな年齢が若いので、直ぐ慣れると思うよ。じゃあ仕事内容については遠山さんのほうから引き継ぎしてくれるかな」
言われた遠山さんは、小学生が先生に質問するときのように、おもむろに手を上げた。
「はい、主任! まずは会社内の案内してあげたいんですけどいいですか?」
「ああ。いいよ。頼むね」
「よっし! じゃあ行こうか、仲道さん」
がしっと腕を掴まれ、予想外に強引に連れ出される。
「あの、遠山さん、鞄……」
「ああ! とりあえずここ置いて。机。じゃあほら、行こう!」
呆気にとられるほかの面々に見送られながら、私は遠山さんに引っ張られた。
待って。優しそうに見えたのに、……ていうか、実際優しいは優しいんだろうけど。この人、予想外にパワフル!
圧倒されて言葉が出せないよ。