王子様と野獣
「主任が女の子ちゃん付で呼ぶところなんて初めて見たし!」
しかし、遠山さんは楽しそうにまくし立てると私の背中をドンとどつく。
「えっと、あの」
「ああ、とりあえず上の階に行こうか」
しかもあっさりと普通の話題も入れ込んでくるから、こっちが混乱しちゃうよ。
エレベーターを待ちながら、とりあえず最初の疑問に答える。
「えっと、そんな特別なものじゃなくって。馬場主任とは、昔、一度会ったことがあるだけなんです。父親同士が同僚で、ちょっと遊んだだけで」
「えー? それって何年前よ。よく覚えてるね」
「十六年前……? あ、でも、金髪だったからすごく記憶にあって」
「そうだよねぇ。ハーフだって話だけど、目立つよね、あの頭。そっかぁ。でもさ、よく主任のほうも覚えていたよね。こういっちゃあれだけど。……その、目立つ感じないよね?」
ちらちら、と視線を送られて、顔が熱くなっていく。
そういえば、驚きすぎて忘れていたけど、あんなに格好良くなっていたあさぎくんに対して、私ってなんてダサく成長しちゃったんだろ。髪も真っ黒だし、この格好だって、まるで学生が無理やりスーツを着たみたいに型通りの格好で。
「そういえば、そうですね。……記憶力がいいんでしょうねぇ、馬場主任」
「えーそっちに取るんだ。おもしろいね、仲道さん」
「おもしろいですか? なにが?」
「いやいや、いいと思う。嫌味なくていい。その格好も素でそれなんだね、きっと。……うちの会社、営業以外は服装規定厳しくないから、ジーンズとかじゃなければ、カジュアルスタイルもオッケーだよ」